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コラム
COLUMN

石巻の宝、金華サバ ── ブランド魚はなぜ石巻でしか生まれないのか

石巻のサバの中で「金華サバ」を名乗れるのは、漁獲全体のおよそ1割未満なのをご存じでしょうか。

500グラム以上の魚体、脂のり15%以上、漁獲海域は金華山沖、そして水揚げ港は石巻港。
すべての条件をくぐり抜けた個体だけに、「金華サバ」という称号が与えられます。

なぜこのサバは、石巻でしか生まれないのでしょうか。
海と、漁師さんと、市場と、そして組合の人たち。
一尾の金華サバの裏側を、順を追って見ていきたいと思います。

金華サバとは何か ── 1割未満に与えられる称号

金華サバとは、宮城県の金華山沖で漁獲され、石巻魚市場に水揚げされたマサバのうち、定められた基準を満たした個体だけが認証される、石巻のブランドサバです。

ブランドの認証は、石巻魚市場が定めるルールに基づいて行われています。

漁法は定置網、一本釣り、まき網のいずれか。
漁獲海域は三陸南部・金華山周辺。
そして水揚げは石巻魚市場に限られます。
さらに魚体は500グラム以上、脂のりは15%以上が目安となっています。

これらの条件すべてを満たす個体だけが、「金華サバ」を名乗ることができるんです。

水揚げされたマサバが、すべて金華サバになるわけではありません。
むしろ大半は「ふつうのマサバ」として流通していきます。

金華サバとして認証されるのは、石巻に水揚げされるマサバのおよそ1割にも満たない量。
漁獲量の減少もあって、近年では「幻のサバ」とまで呼ばれるようになりました。

認証された金華サバには、独自番号の入った認証シールが貼られます。
刺身用のパックにも、加工品の外装にも、このシールが付いています。

番号で個体を追えるようにすることで、基準外のサバが「金華」を名乗って市場に出回ることを防いでいるそうです。
一尾ずつ、人の目で見極められたサバだけが、このシールを身につけられます。

金華山沖が育てる ── 親潮と黒潮が交わる海

金華サバが石巻でしか生まれない理由は、金華山沖という海域の特殊性にあります。

宮城県沿岸の海は、北からの親潮と南からの黒潮がぶつかる、特別な海域です。
冷たい親潮は栄養塩を豊富に含み、暖かい黒潮は南の海の生物相を運んできます。

二つの海流が出会う場所では、プランクトンが大量に発生します。
プランクトンが増えれば、それを食べる小魚が集まり、小魚が増えれば、それを食べる回遊魚も集まる。
金華山沖は、まさにその循環の中心にあるんです。

サバは回遊魚ですよね。
日本近海を北上したり南下したりしながら、季節ごとに餌の豊富な海域を移動して生きています。

秋になって北から南へ下りてくるとき、金華山沖で立ち止まる。
豊富な餌を腹に詰め、脂を蓄える。
その脂を最高にまとった瞬間に、定置網や一本釣りで揚げられます。

これが、金華サバの脂のりが他を圧倒する理由なんです。

同じマサバでも、別の海域で獲れた個体とはまったく違うものになります。
どこで、何を食べて、どう揚げられたかで、サバはこんなにも変わるんですね。

金華山沖でしか得られない餌、金華山沖でしか起きない海流の交わり、そして石巻という港でしか実現しない鮮度管理。
すべてがそろって、はじめて金華サバは金華サバになります。

旬は9月から1月 ── 季節と味の変化

金華サバの旬は、9月から1月下旬までのおよそ4ヶ月間です。
短いように見えますが、この4ヶ月のなかでも、サバは少しずつ姿を変えていきます。

9月。
漁が本格化し始める時期です。
サバはこの頃から餌を多く食べ始めて、身に脂をのせていきます。

漁獲量と魚体サイズが基準を満たすと、石巻魚市場と協会は「金華サバ シーズン到来」を正式に宣言します。
地元紙や水産系メディアにも報じられる、石巻の秋の合図のような出来事です。

10月から11月。
脂のりがピークに近づく季節。

この時期の金華サバを刺身でいただくと、口に入れた瞬間に脂が広がって、後を引かずに消えていきます。
脂が乗り切っているのに、不思議と重くない。
そのバランスは、この季節にしか出ない味だと言われています。

締めサバにすれば、酢の酸味と脂の甘さがぶつかり合って、複雑な味わいになります。

12月から1月。
水温が下がり、サバの身がぎゅっと締まってきます。

脂は依然として乗っているのですが、身の食感が変わってくる。
この時期の金華サバは、味噌煮にすると最も力を発揮すると言われています。

煮ても煮崩れせず、身の繊維が残り、脂が味噌の風味を吸って濃厚な一品になる。
家庭で作る味噌煮とは、別物のような力強さが出ます。

同じ金華サバでも、どの月に食べるかで顔が変わってくる。
漁師さんや仲卸の方たちは、その月ごとの味の違いを身体で知っているそうです。

漁師と市場のリアル ── 一尾ずつ選別される現場

金華サバが「ブランド」として成立するためには、漁の現場と市場の現場の両方で、徹底した選別が行われています。

水揚げは早朝。
漁師さんの船が石巻魚市場に着くと、サバは即座に氷漬けにされて運ばれていきます。

鮮度が落ちる前に、低温で身を締める。
この一連の流れが、金華サバの味を決める最初の関門になります。
鮮度が悪ければ、どれだけ脂が乗っていても、ブランドとしては出荷できません。

市場では、選別が始まります。
サイズを測り、外観を見て、脂の乗り具合を判定していく。

ベテランの仲卸さんや買受人の方たちは、サバの体側を一目見ただけで、脂のりの具合をある程度見抜くそうです。
背の青の濃さ、腹の張り、目の澄み具合。

教科書には書かれていない、長年の経験で蓄積された見立てなんです。
そして基準を満たしたものに、認証シールが貼られていきます。

石巻魚市場買受人協同組合 ── 石巻さかな流通協会の母体となる組織です。

市場でサバを買い付け、加工し、全国に流通させる役割を担っています。
買受人の方たちは、ただサバを買うだけではありません。

基準を守り、ブランドの価値を守り、石巻のサバが「ブランド魚」として市場に立ち続けるための要を担われています。

一尾ずつ。
決して機械的にではなく、人の手と目を通して、金華サバは選ばれていきます。

加工品で広がる金華サバの世界

金華サバは、刺身としてだけでなく、さまざまな加工品としても流通しています。

生のサバを口にできる人より、加工品でその味を知る人の方が、おそらく多いのではないでしょうか。

加工品の代表格は、味噌煮の缶詰です。
石巻には伝統ある缶詰メーカーがあって、金華サバを使った味噌煮缶詰を製造しています。

脂の乗った金華サバを骨ごと煮込んで、味噌で味を調えた一品。
常温で長期保存ができるので、全国どこでも、いつでも金華サバの味を楽しめます。

家庭の食卓だけでなく、災害時の備蓄食としても評価されているそうです。

塩サバや締めサバの形でも、金華サバは流通しています。
脂が乗ったサバを塩で締めると、余分な水分が抜けて旨味が凝縮されます。

焼くと脂が滴り、香ばしい香りが立ちます。
締めサバにすれば、酢で身が引き締まり、刺身とはまた違う食感が楽しめます。

家庭で再現するのが難しい仕上がりが、加工業者さんの技術によって商品になっているんですね。

近年は、ふるさと納税の返礼品としても金華サバが人気を集めています。

石巻市のふるさと納税ページには、金華サバを使った加工品が複数登録されていて、全国の方が石巻のサバを家庭で味わうきっかけになっています。
「ふるさと納税で初めて食べて、ファンになりました」という方も多いそうです。

加工品を通じて、金華サバは石巻の外へ広がっていきます。
生のサバを口にできるのは石巻の近隣にお住まいの方に限られますが、加工品なら全国どこでも味わえる。

石巻の海と漁師さんの仕事が、缶詰の中に、塩サバの中に、ふるさと納税の返礼品の中に、確かに詰まっています。

流通協会の役割と、これからの石巻のサバ

金華サバが、石巻のブランドとして全国に届くためには、漁師さんと市場と、そしてその間をつなぐ存在が必要になります。

石巻さかな流通協会(石巻魚市場買受人協同組合)は、まさにそのつなぎ役を担う組織です。

市場で水揚げされたサバを買い付け、加工し、出荷する。
あるいは加工業者さんへ卸す。
各組合員さんが、それぞれの専門領域で金華サバの流通に関わってくださっています。

一つの組織がすべてを担うのではなく、缶詰メーカー、冷凍倉庫、加工卸、それぞれの組合員さんが役割を分担しながら、金華サバを一つのブランドとして守っています。

近年、サバの漁獲量は全国的に減少傾向にあります。
海水温の変化、回遊ルートの変化、漁獲規制。

さまざまな要因が絡み合って、金華サバとして認証されるサバの量も、決して安定的ではありません。
「幻のサバ」と呼ばれるのは、希少性の高さを称えると同時に、いま石巻のサバが置かれている現実の反映でもあるのかもしれません。

それでも、石巻でサバを揚げ続ける漁師さんがいる。
一尾ずつ選別する仲卸さんがいる。
加工して全国に届ける買受人の方たちがいる。

協会の組合員さんたちは、ブランドを守るために、地味で、しかし確かな仕事を続けてくださっています。

次回からは、金華サバを実際に扱う組合員さんを順に取材して、現場の声をお伝えしていきたいと思います。
缶詰メーカー、冷凍倉庫、加工卸 ── それぞれの立場から、石巻の魚がどう全国に届いているのか。

組合員さんと一緒に、石巻の魚の物語を綴っていけたら嬉しいです。


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